ショーウインドウの子猫

ショーウインドウの子猫


いつもママと通るこの路の この先の
ショーウィンドウに おすまししている子猫がいたの。

大好きな 大好きな 子猫ちゃん。
かわいい かわいい 子猫ちゃん。

ピンとそりかえった小さなお耳。 
舐めた黒飴のようにつややかなボタンのおめめ。
ちょこんと座って 首をかしげてお外を眺めている姿。
全部 全部 すごく かわいいの。
ギュゥって抱き締めてあげたいの。

お家に連れて帰りたかったけれども 
とても立派なショーウィンドウの中の
その子が欲しいなんて、
ママにはとても言えませんでした。

だから、眺めているだけであたしは十分だったの。

でも、どうしてもその子が欲しかったあたしは
ある日、思いきってママに言いました。
「あの子猫が欲しいの。」
ママは少しおどろいたけど、
「明日買いに行こうね。」
と言ってくれました。

嬉しくて嬉しくてその日はなかなか眠れませんでした。
明日からはあの子猫と一緒に眠れると思うとますます
眠れませんでした。

次の日 子猫はいませんでした。

ショーウィンドウの中には
あの子猫はもういなく、
かわりに のっぺりとした子犬の置物がありました。
ママは他の子猫を買ってくれました。
あたしは淋しくなって 思わず泣きそうになりましたが、
そんなことをすると ひどくママにしかられるので
我慢しました。

泣くのは悪い子だからです。
それに、ママはあたしにちゃんと

「子猫のヌイグルミ」

を買ってくれたんだから、泣くのはおかしいの。
あたしは新しい子猫のヌイグルミを抱き締めて、
ママとご飯を食べて、お家に帰りました。

ママはとても満足そうでしたが、あたしのこころの中は
なんだか空っぽでした。
あのショーウィンドウのように。

1997-1999 創作

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